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Sculpture No.1をめぐる話 w/ Hiroshi Iguchi 後編

Sculpture No.1をめぐる話 w/ Hiroshi Iguchi 後編

Photo:Shin Hamada

Sculpture No.1のお披露目となった「Sculpture No.1 / Shiro Ao by Hiroshi Iguchi @B GALLERY」(2021.03.05 – 03.28) の会場にて、デザインを担当した井口弘史さんと今回の取り組みを振り返りながら、愛媛県砥部町で採れる良質な砥石「伊予砥」とそこで生み出される「砥部焼」の可能性、そして、プロジェクトに込めた想いとこれからの話を伺いました。

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井口弘史 / 本文以下(H):
グラフィック・チームIlldozerを経て、2001年より自身の作品制作を主とする活動をスタートさせる。これまで様々なメディアを通じて、音楽とビジュアルの密接な関係性を意識したアートワークを発表している。作品集として『CULT JAM』(BARTS)、『BIG VALUE DUB』(Innen)、『HOLES』(Innen)をリリース。

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聞き手 岡部修三 / 本文以下(S):
建築家。株式会社白青 代表取締役。2013年より、upsetters architects として、新しいスタンダードとしての砥部焼を目指すブランド「白青」のディレクション、デザインを担当。2018年、より深く、愛媛県砥部町で採れる砥石「伊予砥」とそこで生み出される「砥部焼」の可能性を模索するべく、株式会社白青を設立し活動を続ける。


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— 信じていること

S)デザインを進める時に大事にしていることについて聞いても良いですか?

H)基本的には瞬間的な好き嫌いで分けていることが多いので、あまり考えてはいないかも。もうずっと前から、インスピレーションで買い集めたものがたくさんデスクの周りにあって、加えて今は、SNSやネットで直感的に気になるものをピックアップしてまとめていたりもするので、それらがレファレンスになるんだよね。音楽を新しいものも古いものもフラットに聞くのと同じで、自分の直感に素直に、気になるものを身の回りに置いておくことが大事だとは思っているんだけど、なかなか言葉にしにくいところだね。

S)気になった物を収集していって、その中からいろんな偶然によってチョイスされたものがアイデアの起点になる。潜在的な意識の中でそれぞれが共鳴する感じはすごく共感します。その上で手を動かしていく中で、これで良いと思える基準、もしくは信じていることはありますか?

H)デザインに限らずだけど、とにかく自分のアイデアに対してトライ・アンド・エラーを繰り返した先にある無の境地のような、広々と抜けた感覚に到達する瞬間を探してるのかな。森山大道*さんの著書の中に「量のない質はない」という言葉があるんだけど、自分の経験でも同じようなことを感じていたから凄く刺さってね。もちろん偶発的に生まれる良質もあるんだけど、自分が好きだなと思うものを少しずつ増やしていく流れで質に繋がる実感には敵わない。そう考えると、自分なりの良い結果に到達するために、ずっと好きで掘り続けているものが導いてくれるといえるのかな。

*森山大道:日本を代表する写真家。1967年に日本写真批評家協会新人賞受賞。国内はもちろん海外での評価が高く、ニューヨーク・メトロポリタン美術館、テートモダンなどで展覧会が多数開催されている。写真集、写真展、著作、受賞歴多数。


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— レファレンスとサンプリング

S)今日は今回の取り組み(Sculpture No.1)においてのレファレンスを持ってきてもらっています。

H)今日持ってきた資料はほんの一部だけど、いつも机の回りにあるアフリカン・アートや怪獣の本。例えばラスコー洞窟の壁画を見るときに、これって日記のようなプライヴェートな記録なのかな?って想像するように、現代に残された現象を見て勝手な仮説を立てるのが昔から好きかも。

S)プロジェクトのスタート時から、どこかから発掘されたような感覚を覚えるものが生み出せたらいいね、という話をしていましたよね。

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H)そうだね、思い描いたものを衝動に従ってつくっているように感じるものが好き。もう一つ重要なレファレンスがあって、この成田亨*デザインのキングジョーというウルトラセブンに登場するロボット。彼はシュルレアリズムの影響を受けたアーティストでもあって、ウルトラマンや怪獣のデザインにそれが大きく反映されていることで知られていてね。子供向けのテレビ番組の範疇を超えた濃厚で深いデザインなのに、子供がギリギリお絵描きできる形にまとめているところに影響を受けたかな。この感覚は今回の企画で僕がテーマにした「伝承」のヒントにもなってる。

*成田亨(なりたとおる):デザイナー、彫刻家、映画美術監督。1966 年から68年にかけて制作・放映された特撮テレビ番組「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」で、ヒーローや怪獣をデザイン。

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S)この組み合わせはまさに、井口さんって感じがしますね(笑)。そして独自の視点で選んだ対象を歴史や文化と接続して捉えていることも僕が今回井口さんに依頼したいなと思った理由でもあります。

H)白青の根底にある、愛媛県の伝統工芸に対して誠実に向かい合うブランディングを理解した上で、その枠を逸脱した違和感を与えることが僕に求められていることなんだろなって、すぐに理解できたし、そのバランス感覚が修三くんらしいなと思ったよ。さっきの話につながるんだけど、これらは今回の企画のために買い集めた資料ではなく、常日頃から身近にあるものから必要な成分を抽出したわけで、その方が結果的に作品の強度につながるかなと思った。レファレンスはイメージを膨らませる段階では重要だけど、そのままをサンプリングするわけじゃなくて、それらをつくった人の想いを汲み取ったり、具体的な形よりもムードを捉えて吸収することが僕には重要かな。

S)面白いですね。全てのものやことはつながっているということでもあり。そういう意味では、僕らが影響を受けてきたストリートカルチャーがそのまま形になるようなことは、自然となかったですね。

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H)修三くんとの最初の出会いは青山にあった「MIX」というクラブで、クボタタケシ*さんがレギュラーでDJしていた木曜日だったよね。クボタさんのDJはここで簡単に説明できるものではないけど、オールジャンルの曲を独自の解釈によってリズムやムードをつないでいくスタイル、それこそ誰でも知ってるJ-POPも含めてね。いろんな曲を知り尽くした上で、はじめてクボタさんの選曲を聴くお客さんとディープな音楽ファンを同時に楽しませる凄さがある。物事を深く知れば知るほど、広く優しくできる感覚はクボタさんから影響されたことかな。自分の好きなことを周りに影響されずに貫き通す強さも含めて。

*クボタタケシ:
1991年、伝説のラップグループ「キミドリ」のラッパー/サウンドクリエイターとして活動を開始。1996年にキミドリの活動休止後もソロとして現在まで数々のリミックス、プロデュース、そしてDJとして活動。1998年にスタートしたミックステープ『CLASSICS(1~4)』シリーズはオールジャンルミックスの新しい扉を開き、東京から全国のクラブまで熱狂的なフォロワーを生みだした。_オフィシャルサイトより引用

S)ほんとそうですね。僕もクボタさんのDJを聞いて、自分の中での価値基準が明確になってきた記憶があります。付随する情報で判断しないとか、知識を持った上で、自分の基準で判断していくことや、世間の流れに引っ張られないことの重要性とか。一人でフロアに身を預ける平日深夜の「MIX」は自分と向き合う貴重な時間でした。

H)ほんと(笑)。その感覚が共有できるのは大きいね。知識や経験が増えていくたびに、シンプルで分かりやすくなっていくのは理想的かも。キャリアを積む中で迷走して難解になっていく先人の歴史に触れてきたからこそ、知れば知るほど解放されていくことが自分の理想だと強く感じるよ。

S)本当にそうですね。加えるなら、分かりやすいことはスタイルになることとは対極で、そぎ落とされていく感じに近いのかなと。オリジナルなものがそぎ落とされていくと、ただシンプルなだけではない豊かさにつながりますよね。言うまでもないのかも知れませんが、わかりやすくストリート的な表現になることとは対極に。


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— Sculpture No.1 を通じて考えたこと

S)今日話していて、このプロジェクトは僕が白青に従来のデザイン領域で関わってきて感じた限界、もしくは焼き物で連想するような器の領域、そして、民藝や伝統工芸としての領域、いずれもさっきの話でいうスタイルやジャンル的なものだと思うのですが、それを突破するための試みであることをあらめて思い出しました。一見、経済的な合理性がなさそうなことでも、ビジョンを模索できるようなことにトライするために、白青を事業ごと引き取ろうと思ったのですが、今回の取り組みを通じて、より純粋につくりたいものをつくり続ける先に、何ができるか模索したいなと思いました。

H)今は再生回数やフォロワー数のように結果が公に数値化されていて、一般的にも一つの判断基準になってるけど、そこにカウントできない価値も同時に楽しんで欲しいよね。もちろん時代と共に変わるべきことは沢山あるけど、いつの時代でも「これ好きだな」って思い続ける感覚は大事じゃないかな。今回の自分の役割が白青のブランド全体に対して良いエッセンスなるように、企画がスタートしたころから理想としてあった。窯元の麻人さんの作家性も意識しつつ、白青のビジョンと僕自身の立ち位置、その3者のバランスが一番重要だなと。

S)好きだからつくるという根源的な感覚。アートにしろ仕事にしろ、今はどんどん減ってきている気がするので、大事にしたいですね。

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— 今後について

S)最後になりますが、今後のことについて、少しだけお話しできればと思います。次にやってみたいことってありますか?

H)今回の「Sculpture No.1」の取り組みでいうと、ファミリーはつくりたいよね。と言っても「No.1」が自分なりに完璧に近い着地だったから、今すぐに生まれそうにないけど(笑)。 後々シリーズ化していくといいな。個人的なビジョンとしては、冒頭に紹介した「CULT SIGN」や「HOLES」といったシリーズを継続していく流れで、自分自身も成長できればいいかな。あとは音楽をつくったりね。2019年からBim OneのE-muraくんと「eyeshadow’s Dub Workshop」としてDubの一発録りの実験をしているので、これもゆっくり継続させたいと思ってるよ。とにかくやりたいことが多すぎるから、優先順位を考えて常日頃から頭の中を整理しないとね。

S)今はやろうと思えばなんでもできる時代ですよね。だからこそ、何に、どう取り組むかがより一層重要で、自分が残したいことや、やりたいことを純粋に表現したり追求することは自然だなと。プロジェクトはまだまだはじまったばかりなので、一緒にいろんなトライをしていきたいなとあらめて。

H)ぜひ。僕の知らないところで、この取り組みが広がってくれたり、影響を与えあったりしてくれると嬉しいですね。

Sculpture No.1をめぐる話 w/ Hiroshi Iguchi 後編

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Sculpture No.1をめぐる話 w/ Hiroshi Iguchi 前編はこちらから。
Sculpture No.1についてはプロダクトページより。

企画 : Shiro Ao
編集 : Tatsuma Hino (upsetters architects)
協力 : B GALLERY


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