ストーリーズ

砥部焼とわたし#003

ストーリーズ「砥部焼とわたし」

1777年(安永六年)に門田金治や杉野丈助らにより、砥部にて初めて磁器焼成に成功してから200年後の1977年(昭和五十二年)に砥部焼磁器創業二百年祭を記念して、発行された「砥部焼とわたし」。有名陶芸家をはじめ108名の方が、砥部焼との出会いや、つながりなどそれぞれの思いを綴った随想集を砥部焼協同組合の協力により紹介していきます。


私にとっての青春時代

学校を卒業した後、四年を過した砥部を去ってから、もう八年になります。
はじめての春四月、青空にそびえる山(後に障子山と知りました)に向って空豆の花の香が満ちた畑の中の道を、下宿(優新寮)から梅山窯まで歩いたことが、強く心に残っています。
 絵付場から眺めた、春雨に煙る桃の花、蓮華の花のジュウタン、そして昼休みの蕨取り、夏には、五本松池や、郡中の先まで同僚と自転車で行って泳いだり、秋のみかんや柿、職場対抗のスポーツ大会、冬には、早朝のバスで、三坂峠を越えて美川村にスキーに行った事等、数々の出来事が、鮮かに脳裡に浮かんで来ます。

はじめてみかんの花を見、香を嗅いだのも砥部でした。
一諸に仕事をした、工場の人達の当時の顔が一人々々浮かびます。
流行歌の詞ではないけれど、将に、私にとっての青春時代は、砥部の自然と砥部焼と砥部の人々との関わりそのものでした。
四年の間に学んだ数々の事、特に染付に於いての呉須の扱いと、轆轤技術の修得が、現在の仕事の上で、どんなに重要な役割をしているか計り知れません。
 今では、梅野精陶所も、砥部の町の様子も、随分変ったろうと思います。
大谷の田んぼに、家が建ち並んだと聞いています。
砥部焼も、時が経ち変って行くでしょうが、砥部の素晴しい自然と人々を反映して、いつまでも魅力あるものとして、制作され、生産される事を心から望んで止みません。

伊志良光 / 陶芸家

本書P7-P8より引用

ストーリーズ「砥部焼とわたし」#004はこちらよりご覧ください。

1977年(昭和52年)出版「砥部焼とわたし」の随想集より
出版元:砥部焼磁器創業二百年祭実行委員会編
協力:砥部焼協同組合


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