ストーリーズ
窯元コラボレーションプロジェクト#陶彩窯
平成元年生まれの若き陶芸家。砥部生まれ砥部育ち、両親がともに作陶する「陶彩窯」にて工房をもち、独自の視点とセンスで注目されています。この地で作家活動をすること、また、やむなき「やきもの」への愛と憧れ。長戸さんが今、最も興味のあることへの挑戦を追いました。
—陶芸の道に進むと、いつ頃から思っていたんでしょうか。
小さい頃からぼんやりとやきものに関わるんだろうと思っていました。京都の美術館でさまざまなやきものに触れたことがその道に進む決定打となりました。京都の陶芸の職業訓練校へ2年ほど通い、その後、試験場で釉薬の勉強をしました。実家の「陶彩窯」に戻ってきたのが2011年です。
—帰ってきてからは、「陶彩窯」としての商品をつくりながら作家活動をする感じでしょうか。
そうですね。アイデアを出して商品の方向性を決め、家族で分業して“商品”として仕上げることもあります。例えば、江戸時代の古砥部の文様をオマージュした「染付古砥部文」シリーズは、絵付を母がやっています。このシリーズのために土と釉薬を作り、当時つくられた磁器片や文献を参考に、窯のオリジナリティが出るような絵付けを心がけています。
—長戸さんが制作する上で「商品」と「作品」との違い、位置付けの差はあるのでしょうか。
商品・作品ともに、完成形が一番大事だと思っています。商品は効率と再現性が大事で、作品は自分が興味があるものを作っています。今のところ作品は砥部の原料・素材でつくることが楽しくて、そのような方向性でやっています。
—作品の制作はいつ頃から始められたのですか。
コツコツやっていたのですが、始めはなかなか形にならず…。やっとものになってきたと思ったのが2014年ごろ。地元の土で炻器(やきしめ)の茶碗をつくりました。陶器ですが、磁器ぐらい焼きしまっているような作品ですね。
—作家としてデビューしたのは、おいくつの時ですか。
25歳の時です。日本橋の三越でやきもので個展をしました。
—その個展が行われたきっかけは?
田部美術館茶の湯の造形展があって、そこに茶碗を出品したら入選して、そこからお声かけをいただきました。
—砥部では長戸さんのように茶器のフィールドで個人で作品を発表されている方は珍しいように思います。デビュー以降の代表的な作品をご紹介いただけますか?
2016年に作った「伽羅盃(きゃらはい)」、「璃寛盃(りかんはい)」というみかんの木の灰を釉薬に使った作品です。
—なぜみかんの灰を使ったんでしょうか?
うーん、もしここが青森だったらリンゴを使ったかもしれない(笑)。
—もしかして、昔の人たちがやってきたことって本来はそういうことだったのかもしれませんね。その土地のものを使ってつくるという、ごく自然なこと。長戸さんが作品作りへ向かう原動力は何なのでしょう。
自分が所有したいと思うものをつくりたい、好きな形や色にしたいと思うだけなんですよね。
—純粋にやきものが好き! だから自分でつくっちゃう。
究極なことを言ってしまうと、自分のためにつくっているところはあるかもしれません。本当に気に入ったものができ上がると売りたくないけど(笑)。
—作品制作をする上でのアイデア、意欲はどのように湧き上がるのでしょうか。
美術館で目にしたもの、写真集や文献、道に転がっている陶器の破片など、とにかく見たもの出会ったものに影響を受けます。あとは、釉薬のイメージや形などディティールから入ることも。日本のみならず海外のものから影響を受けることもあります。でも、いいなぁと思ってもやり方がわからないことが多いので、文献や現物からあるだけの知識を取り入れて、その場のひらめきでアレンジしていきます。
—長戸さんの作品は、プリミティブな感じと現代的な感じ、その両方の印象を受けます。
やきものそれぞれ好きだと思うところはありますが、時代はそんなに気にしないですね。過去と現在と未来は一直線なので、たまたま目の前に現れたものに興味が湧いて、その時の精一杯でやっているという感じです。工程は関係なく完成形が自分が好きだと思えるくらいでないと商品としても作品としても外に出せないですからね。僕にとっては、プリミティブであることにこだわるわけでもなく、かといって実用性があることがとても重要なわけでもないのです。
—今、興味のあることはどのようなことでしょうか。
今は粉引と南蛮ですね。興味の移るままに色々と。一つ一つしかできないので。
—それはとても羨ましいです。作家じゃなきゃできないことだから。
自分がつくったものに対して興味を持ってくれる、買ってくれる人がいるというのは嬉しいですね。
—購入した人がどのように使っているとか、気になりますか?
それほどこだわりがあるわけではありませんが、「こんなものがほしい」など、要望を言ってくださるのはありがたいです。自分一人で考えられることにはどうしても限界がありますから。
—今回、「白青」からコラボレーションのお願いをさせていただきましたが、このように誰かとものづくりをすることはありますか? また、どのようなことをやってみたいというイメージはありますか?
コラボレーションをすることはほとんどないですね。
コラボレーション制作に挑戦してみて
—色々と議論を重ねて、タイル状のやきものをつくっていただくことになりました。
何度か形成して焼いてみましたが、最終的には四角い石膏の型を作り、そこに土を押し付けて形をとり、焼いてみることにしました。黒くなっている部分は灰がかかっているところです。器がひっつかないように、藁を挟んで焼いています。窯の酸素量や温度、時間などを調整して何度か焼き方を変えてみました。計算できる部分とできない部分があるので、窯出しの時が一番ワクワクします。
—また最近、新しい出会いがあったとか。
砥部の山で拾った陶片を見て感激しました。磁器も陶器もあって、きっと江戸時代のものもあると思うのですが、その時代にこれほどの技術や質感のものが作られていたと思うと、モノとしての存在感に大いに刺激を受けています。
掲載記事は2017年5月Shiro Ao MAGAZINE VOL.02のための取材より引用
Edit : Junko Shimizu (JUMBO EDITORIAL BASE)
Photo :
Youhei Sogabe (Image in text)
Yusuke Kida (Top / End of image)