ストーリーズ

窯元コラボレーションプロジェクト#龍泉窯

池田麻人さんは砥部では若手の36歳の陶芸家。自由で野趣溢れる作風で知られています。東京で定期的に個展が開催されたり、海外のギャラリーでも作品が取り扱いされるなど、自由な表現の場として世界を視野に活動を続けています。たゆまぬ進化をする麻人さんと、どんな表現に挑戦できるでしょうか。


—『白青』の立ち上げ以前、砥部焼協同組合の集まりに富士夫さん(父)がいらっしゃってその時に、若い作家も多く出ているので応援したいということや、プロダクトとしての砥部焼を整理し直して世の中に出していきたいなど、いろいろとお話をさせていただきました。

(富士夫)個人で創作をやっていると、自分の好きな色合いや造形を追求する形にどうしてもなりがちです。岡部さんは砥部の出身ですし、世界でいろいろなものを見てきた方ですので、新しい形や使い方を的確にアドバイスいただけるんじゃないかと思ったんですね。あと、麻人と岡部さんが旧知の仲ということで、以前からつながりもあったそうで少しは心許す部分もあったかな(笑)。

—麻人さんは中学の野球部の先輩なんです。実家が窯元をやっているということは知っていましたが「龍泉窯」は何年目になりますか。

(富士夫)今年で40年です。父が窯を始めたので麻人は3代目になります。

—陶芸家を父にもつ環境に生まれ育った麻人さんですが、砥部焼に関わることになると幼いころから思っていましたか?

(麻人)そうですね、中学を出てすぐに佐賀県の有田工業高等学校セラミック科に進学しました。卒業後は砥部に戻ってきて、茶碗やコップなどを淡々とつくり続けていました。そして、26~28歳の時に青年海外協力隊に参加して、エジプトのアレキサンドリアで障害のある子ども達に陶芸を教えていました。それからまた砥部に戻り、2011年に初めて個展を開催しました。

—その頃には今の作風が出来上がっていたのでしょうか。

(麻人)まだそこまでいっていませんでしたね。父と同じようなものを半分、あとベーシックなシリーズを半分。父がやってきたことを自分なりにアレンジして、さまざまなカットに挑戦して行き着いたのが今の形です。僕は純粋に(父の作風を)良いと思っているんです。徐々に2013年ぐらいから今のような感じに変わってきましたね。
(富士夫)僕は手間を省いて良いものをつくるという考え。やきものには作家的な部分と生活としての部分がありますよね。僕は麻人の器は手になじむし、お酒を飲むのにぴったりだと思っていますよ。

窯元コラボレーションプロジェクト#龍泉窯

左は清らかな水の流れを連想させる父、富士夫さんの作品。 右が麻人さんのぐい呑み

—お互いにリスペクトできるというのはすごいことだと思います。麻人さんはつくりたいものや、やりたいことはありますか。

(麻人)海外のギャラリーでも展開してもらえるようになりたいですね。海外だと想像もできないことが起こりそうだという期待もあります。作品に関してはできたものから考えていくので、その場その場で変わっていきます。他にはないものをつくりたいという気持ちは変わりません。とても抽象的な表現になりますが、原始的なものをつくりたいと思っています。川に転がっていてもおかしくないというか、不自然じゃないもの。

—インパクトのある作風なので、感覚だけでやっていると思われがちですが、過程で考えられていることがたくさんあるんですね。

(富士夫)麻人は僕より純真なんかもしれんなぁ(笑)。僕は幅広い人に向けてつくっているので、収納とか使い心地や耐久性を考えながら、また焼く時のことや出荷する時のことまで考えるので、どうしても単純なものになりがちなんです。

—麻人さんは、作品と実用性のバランスをどう考えてつくっているんでしょう。

(麻人)「使えるものである」という前提でつくっていますので、作品と用途の両方です。意外と口当たりも良くて、凹んでいる部分が指にフィットして持ちやすいとか、見た目以上に使いやすいと思ってもらえると思います。若い頃に量産品をずっとつくり込んできたから、それが染み付いているというのもあると思います。
(富士夫)やはり基礎はできてないと、ひとりよがりになりますよね。崩れていてもしっかり中心線がとれているとか、不安定に見えてもどこか安心感があったり。

—今回、プロジェクトに関わるにあたって、チャレンジしてみたいことはありますか?

(麻人)海外に限らずですが、自分の作品をいろんな方に見ていただきたい。あと、もっと自由な発想で使ってもらいたい。

—麻人さんの作品はこれで形になっているというか、一つの世界観として仕上がっていると思うんです。だから形を提案するのは違うかなと思って、最も麻人さんらしい作品をベースにその周辺をデザインすることに挑戦してみたいと思いました。

(麻人)作品の中ではぐい呑みのサイズが最もカットが洗練されていて、インパクトもあるので良いと思っています。

窯元コラボレーションプロジェクト#龍泉窯

一つずつ手作業で流れるようなフォルムを形づくる、一期一会の緊張感が漂う

窯元コラボレーションプロジェクト#龍泉窯

『白青』オリジナルの呉須で水をイメージしたラインをひと筆で引いていく

窯元コラボレーションプロジェクト#龍泉窯

試作を重ね、水面に見立てる呉須の入り方を微調整。 陽の当たり方で表情が変わり美しい


コラボレーション制作を終えて

—いろいろと検討しましたが、あえて「用途をしぼる」という着地をしました。

(麻人)量産品であれば、用途を考えながらつくるのが普通ですが、作品に関しては用途を限定したくないという思いがいつもはあります。

—その気持ちはよくわかります。今回は、そこをあえて限定することで、作品の魅力が際立つような提案ができればと思いました。麻人さんの作品を眺めていると、この有機的な形は植物との相性が良さそうだと感じました。そこで、花器として提案ができればと。

(麻人)誰かと相談しながら作品づくりをするという経験はほとんどありませんので、なるほど!と。今のぐい呑みを花器に進化させ、大きさや形をさまざまに挑戦しました。

—試作を重ね、形は植物を入れた時に表情が出る2つのパターンになりました。基本の造形はそのままに、一つは口を細く高さをもたせたもの。もう一つは口を幅広く開いたものに。植物に関しては、エアープランツという水を必要としないものであれば部屋に置きやすいと思い、「JARDINS des FLEURS」※1 にアレンジしてもらいました。

(麻人)花器の内側に水があるような表現をしてみてはどうかとアイデアをいただき、『白青』の呉須で水面を描いてみました。水の表現は、濃い呉須よりも少し薄めにしてムラを出した方が表情が出て面白いと感じました。釉薬も白くツヤが出る石灰釉と、石灰釉に少量の鉄を混ぜたものと2パターン作ってみました。

—植物との親和性は新たなインパクトを与えるとともに、より作品の造形美を際立たせることになったと思います。

(麻人)いろんな方の意見を聞きながら試行錯誤する過程がとても刺激的でした。これからも自由な発想で、器を手に取られる方に用途を委ねていきたいと思います。

※1 2002年より、フラワーアーティストの東信(あずま まこと)さんを中心に立ち上げられた「オートクチュールの花屋」。

窯元コラボレーションプロジェクト#龍泉窯

龍泉窯

愛媛県伊予郡砥部町五本松 885-23
TEL 089-962-4863
(営業時間 9:00〜18:00 不定休)
※見学希望の際は要事前連絡

掲載記事は2016年2月発行のShiro Ao MAGAZINE VOL.01より引用

Edit : Junko Shimizu (JUMBO EDITORIAL BASE)
Photo :
Youhei Sogabe (Image in text)
Yusuke Kida (End of image)


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